インサイドセールスが営業の生産性を高めるために不可欠な顧客データ(定量・定性)と活用方法

こんにちは。山梨(@device0462)です。
先日、JAPAN CLOUDコンサルティング(JCC)のコミュニティのなかでBrazeの取り組みを話す機会をいただきました。

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創業期1~2年でいかに最速で成長を遂げるか――激アツな「インサイドセールス勉強会」第2弾をレポート|Japan... こんにちは。JAPAN CLOUDコンサルティングディレクターの川上和代です。 当社では、B2B SaaS分野において海外で急成長している企業と合弁企業を設立し、日本市場への進出お...

JCCでは月1回程、ポートフォリオカンパニーが有志で集まって勉強会を実施しています。立ち上げメンバーということで、皆さんとても優秀でいつも学びや気づきを得ることができてます。

今回は、勉強会でお話したBraze BDR(Business Development Representative)でのデータ活用です。Brazeは立ち上げフェーズとはいえ、外資系企業ということもあり、比較的多くのマーケティング・セールス関連のテクノロジーが導入されており、データ取得・分析ができる環境が整っています。

今回は、データを活用した取り組み内容や成功施策について、セミナーレポートではお伝えしきれなかった内容を含めて整理します。
*本記事は著者のnote記事の転載です。

この記事の著者

山梨 寛弥/外資系SaaSインサイドセールス

経歴:ZUU->Marketo(Adobe)->Braze 立ち上げ / Maroo起業 / Tacto編集長
Marooでは、中小企業・スタートアップのBtoBマーケティティング&セールスの組織改革やテクノロジー活用を支援。 マーケティングとインサイドセールス&セールスに関して執筆します。

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目次

マーケティング・セールスプロセスの枠組み

まず、Braze社内のレベニュープロセスについて解説します。

マーケティングチームが新規リードを獲得し、育成をかけてホットリード(MQL)を創出します。MQLや新規リード対してBDRがアプローチ、アポイントを獲得して営業に送客する流れです。

マーケ・セールスプロセス管理の枠組み

営業に送客した後にいくつかの条件が満たされれば商談化となります。商談化とは、Salesforce上の「Discovery」ステータスに該当します。Discoveryになる案件数と金額をいかに創れるかがBDRのKGIです。

また、商談件数・金額を最大化するために、様々なツールを活用したオペレーション設計・構築をしています。

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マーケティング&セールスプロセスや利用しているテクノロジーの詳細は、以下記事を参照ください。

大局的に市場・顧客を理解するための定量データの分析

現在のBrazeの立ち位置を把握するため、過去のDiscovery商談をSalesforceから抽出し、FORCASにインポート、ターゲットセグメント(業界と従業員規模など)におけるデータ分析を行いました。

今回の分析で明らかにしたかったことは以下です。

・受注金額、受注率の高いセグメントはどこか
・優先度が高いセグメントに開拓余地があるか
・効果の高いマーケティングキャンペーンはどれか
・生産性が高いBDRの取り組みはなにか
・顧客の反応率を高める接触頻度はどれくらいか

・受注金額、受注率の高いセグメントはどこか

Brazeの場合は特定業界に限らず、幅広い業界が顧客対象となります。そのなかでも受注金額や受注率は各業界で明確に差が出ます。

データ分析を行う際には、バブルチャート(4象限)にまとめています。受注貢献度と受注率で構成される4象限により、生産性の高い領域を見極めるためです。

マスキングはしてますが以下が実際の分析結果です。横軸を受注率、縦軸を合計受注額としており、右上がパフォーマンスが高い領域であり、該当する業界A、Bは最優先で開拓する業界です。

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次に優先度の高い領域を左下の業界C、Dとしています。受注率も合計受注額も低い業界ですが、営業と会話した結果、バブルの大きさが大きく(市場ポテンシャルがあり)、また1社あたりの受注金額が大きい、かつBrazeの差別化された価値に共感されやすい業界などの理由から優先度2としています。

右下の業界Eは受注率が高いように見えますが、まだ商談母数自体が少ない、かつレガシー産業であるため受注までのリードがタイムが長いといった理由で優先度3においてます。

このように、データによるファクトと営業のフィードバックのすり合わせを行い、ターゲット戦略を決定しています。

・優先度が高いセグメントに開拓余地があるか

受注金額、受注率による優先度が決まったら、シェア(カバレッジ)率の把握します。

Brazeはまだ少数精鋭の組織なので、闇雲に工数を使うのではなく、データをもとに当たりをつけて「このセグメントにリソース集中して一点突破する」という戦略的アプローチが必要であり、そのためのカバレッジ分析です。

Brazeの場合、Brazeが獲得し得る市場「SAM(Serviceable Available Market)」の企業数に対して、どれだけ受注・商談創出・リード獲得できているかを整理します。

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業界Aで言えば、「受注率が高い、かつリードカバレッジ率は4割程なので、6割程はホワイトスペースがある」と考えられます。仮に業界AをEC業界とした場合、「EC業界のグロースマーケター向けにF2(2回目購入)転換率向上をテーマにしたウェビナーを開催してリードを集めていこう」というマーケティング施策を考案できます。

また、業界Eは、受注率は高いが商談カバレッジ率が低い(商談母数自体が少ない)ことが分かります。SAMが大きいこともあり、「リードや商談のカバレッジを増やすために、業界Eをターゲットにしたイベントにスポンサードするための予算を確保する」という予算計画を立てることができます。

・効果の高いマーケティングキャンペーンはどれか

同じくバブルチャートにより、効果の高いマーケティングキャンペーンを分析することができます。

前項のようにターゲットセグメント、カバレッジを整理した上で、各業界に向けたマーケティング施策を打ったり、BDRの活動リソースを投下することになるため、振り返りや効果検証に便利です。

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軸の考え方は様々ですが、今回は横軸がアポイント率、縦軸が商談化(Discovery転換)率です。また、バブルの大きさはキャンペーンのメンバー数としており、バブルの大きさで各キャンペーンのポテンシャルの高さを把握できます。

右上がハイパフォーマーの領域となっており、最も効率が高いマーケティングキャンペーンです(HPからの問い合わせなどが該当します)。

左上は、商談化率は高く、かつ一定のアポイント率も担保できる領域です。パートナー企業様と共催したウェビナーなどが左上に該当します。Brazeはまだ市場認知が低い製品ですが、連携親和性の高いパートナーテクノロジーがいくつかあり、そのテクノロジーを利用している、関心が高い顧客はBrazeの提供価値の理解が早く、検討が進みやすいことが商談化率が高い理由だと考察してます。

左下は、アポイント率、商談化率ともにそれほど高くない領域です。このようなキャンペーンにはサードパーティーのイベントなどが該当します。

大きなイベントに協賛すると一度に数千程度のリードを獲得できますが、母数が多いのでアポイント率が低く、情報収集しているリードが多いので短期の商談創出には繋がりません。ただ、何度かアプローチすることで定期的に商談を創出できることも事実なので、ここは外部のコールベンダーにアウトソースすることで活動量を担保しながら掘り起こし施策を行っています。

・生産性が高いBDRの取り組みはなにか

少し視点を変えた話もします。商談創出に最も貢献しているBDRの取り組みは、アウトバウンド×エンタープライズであり、全体の商談貢献度は58%と約6割です。*件数はマスキングしてますが、1件あたりの商談金額はコマーシャルと比較して1.5倍程です。

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上記の表は、縦軸がテリトリー(コマーシャル/エンタープライズ)、横は活動種別(アウトバウンド/インバウンド)としており、が分かれています。

*ここでのインバウンドは一般的な意味合いと少し異なっており、HPからの問い合わせ、もしくはマーケティングが育成してホットになったリード(MQL)への活動を指します。

つまり、テリトリー・アカウント戦略を立てて、積極的にリードの掘り起こしをすることで短期に商談貢献できる、という結果です。本データの裏付けもあり外部のコールベンダーと連携したエンタープライズ領域の開拓強化を進めています。

新たな発見としては、BDRが何度か接触した結果、「可能性がない」と判断したリードであっても、期間をおいて外部のコールベンダーからアプローチすることでアポイントを獲得できることが多々あります。

・顧客の反応率を高める接触頻度はどれくらいか

外部のコールベンダーに任せきりではなく並行してメールチャネルでフォローを行い、マインドシェアを高めることで顧客の*反応率は劇的に高まります。

*反応率:メールの返信率やコールによるコネクト/アポイント率を指します

マインドシェアを高めるため、接触頻度と接触深度の両方を最適化することが必要です。顧客にとって心地よい頻度でアプローチができているか(接触頻度)、顧客状況に合わせてパーソナライズしたメッセージを送れているか(接触深度)という2つが軸となります。

接触頻度に関して、Brazeでは「1営業日以内に必ずメールと電話をセットでアプローチ、顧客に繋がるまで最低4営業日は連続して活動する」というルールがあります。例えば、メールを送ったのであれば、「メールの件で口頭で補足したくお電話でした」という電話をかけ、電話が繋がらなければ「先ほどお電話した件です」というメールを送ります。

あるイベントで獲得したリードのフォローアップをした際、1通目に送ったメールの返信率が27%、2通目にリマインドとして送ったメールの返信率が40%、3通目に送ったメールの返信率が18%という結果でした。

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つまり、2通目以降のメールを送信しない場合は、約35%の顧客との接触機会を失っていることになります。地味ですが、継続フォローは顧客のマインドシェアを高めて返信を促進するための非常に重要な施策です。

*返信率を高めるための工夫について、詳細は以下記事を参考にください。

(参考)テクノロジー活用することでフォローアップの自動化とパーソナライズを両立

一方、同じ内容で何度も継続してアプローチをすると嫌われるだけなので、顧客の状況や行動に合わせてパーソナライズした内容を送るようにしています。

Brazeは「Outreach」(アウトリーチ)というツールを活用することで、顧客へのコール・メールによるフォロープロセスを仕組み化するだけでなく、顧客状況に合わせたパーソナライズも同時に実現しています。

図2

*Outreachの詳細について知りたい方は、以下記事を参考にください。

note(ノート)
「Outreach(アウトリーチ)」シーケンスによりインサイドセールスがよりクリエイティブなチームへ昇華。半分... こんにちは。今回は前回の「Outreach」記事の続きです。 私が新卒で入社したベンチャー企業や外資のSaaSベンダーでインサイドセールスを経験しているなかで、最も即効性が...

例えば、パーソナライズの最初の分岐はマーケティングキャンペーンになることが多く、どこのイベント/ウェビナーに参加してくれた(不参加だった)か、どの資料をダウンロードしてくれたかといった流入経路やコンテンツにより、テンプレートを出し分けます。

獲得リードが少ないマーケティングキャンペーンであれば、メールのテンプレートは1つでも良いのですが、数千規模のリードを獲得できるキャンペーンの場合は、更にテンプレートを細分化させていきます。

例えば、EC業界であっても、CRM担当やプロダクト開発など、役職・部署ごとに解決したい課題や価値と感じていただけることが異なるため、顧客起点でパーソナライズしたコンテンツを当てることで反応率が劇的に向上します。

*企業単位ではなく、部署・役職に焦点を当てたパーソナライズの考え方、コンテンツ企画については、以下の記事に書いているのでご関心ある方は参考にしてください。

note(ノート)
"顧客の解像度"を上げることで、インサイドセールスは実行部隊ではなくインテリジェンス集団になれる|山梨... こんにちは。山梨(device0462)です 「インサイドセールスを労働集約型からインテリジェンス集団へ」 著書『The Model』より 著書『The Model』の一節にもある内容で...

顧客一人ひとりの深掘りするための定性情報

データによる大局理解だけではなく、ヒアリングによる顧客一人ひとりの深堀りも同等に重要だと考えます。

Brazeの場合は、営業に送客する前に20〜30分ほど顧客とWeb会議の時間を設けて、課題整理や実現したい施策・ビジネスゴールなどの確認、すり合わせを行ってます。目的は、顧客理解を深めることで商談の時間価値を最大化することです。

また、顧客目線でのリアルな課題感や実現したい施策などの情報は、その企業一社を理解するだけではなく同業界の企業に横展開できるため、電話のトークやメール文面の精度を格段に向上させることに繋がります。

「事前に30分のヒアリング時間をかけるのは生産性を下げるのでは?」という質問をよく受けますが、メリットは大きく3つです。

・初回訪問のなかで前半30分がヒアリングに消費されることなく、商談のなかで課題解決に使える時間割合が増える
・商談前に顧客の期待や懸念を知ることで、顧客要望に沿った資料の準備、懸念や疑問を解消するための調査時間を確保できる
・製品に対する顧客の理解が不足している、解釈が間違っている場合には、正しい情報提供・修正を行うことで営業が提案しやすい土俵ができる

商談では、その場で回答できない「持ち帰り」が発生すると顧客の信頼を失ったり、商談を長引かせる要因になることもあります。そのため、事前に”たった30分”のヒアリングと情報提供の時間を設けることで、営業プロセス全体の生産性を高めることに繋がると考えます。

また、Web商談は「Gong」というツールで自動で録画されるため、メモに意識を向け過ぎることなく顧客の話に集中しながらヒアリングができます。録画はチームにシェアすることが容易にできるため、オンボーディングの観点でも便利です。

顧客一人ひとりの深掘りするためのヒアリング徹底

本記事のまとめ

色々と書きましたが、まとめると以下3つです。

  • 少数精鋭だからこそ、作業に没頭する前にどこの領域で勝つかを見極めることが重要
  • アウトソースやツールを駆使しながら、インパクトは大きいが社内リソースが不足している領域に時間を配分する
  • データによる定量情報だけでなく、顧客一人ひとりの声に耳を傾けた定性情報をあわせることで顧客の心に響くメッセージを考案できる

立ち上げフェーズの企業だと、「データを気にし過ぎて頭でっかちになるより、まず行動した方が成果を出やすい」という意見もあるかと思いますし、実際、私が日系のスタートアップにいたときも同様の考え方でした。

「行動量が成功可否を決める重要な要素になる」という考え方は変わらないのですが、データ分析をすることで、自身の感覚的なバイアス・固定概念が覆されたり、どこの領域にリソースを集中して投下するべきかが整理されるなど、ある種の”メンター”のような役割を果たしてくれると感じています。

立ち上げフェーズの少人数な組織だからこそ、自分ひとりで考えて意思決定しないといけない領域が多く、どこか偏った判断になりがちなため、データを適切に活用し、客観的な視点を得ることが重要だと思います。

*募集*
BrazeのBDRはまだ発展途上のため、色々な会社の方と情報交換させてもらってます!たくさんの人とお会いしたいため、ぜひ山梨のTwitterからご連絡いただけますと幸いです!

(提供:著者「山梨 寛弥」のnote

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